エイジングパラドックス(加齢のパラドックス)

 高齢期には身体的な衰えや様々な喪失を経験するが、一方で、主観的幸福感は向上していくことが、国内外の調査で明らかになっている。
 この現象を、Aging Paradox(エイジングパラドックス)という。
 エイジングパラドックスは、どのような理由で起こると考えられているのでしょうか。

 

第1モデル
 エイジングパラドックスが起こる1つめの理由は、SOC理論で説明することができます。SOC理論とはSelective Optimization with Compensationの頭文字を取った言葉で、日本語では選択最適化補償理論と訳すことができ、老いに適応するための方法としてドイツの心理学者であるポール・バルテスによって提唱されました。
 SOC理論の「S」とはLoss-based Selection(喪失に基づく目標の選択)を指します。
 具体的には、若いころにはできていたことが身体機能の喪失などによりできなくなるため、目標を見直し、今の自分に合ったものに変化させるのです。
 これにより高齢者の方が目標を達成しやすくなるため、幸福感を得られやすくなると言えるでしょう。
SOC理論の「O」とはOptimization(資源の最適化)のことです。
具体的には選んだ目標に対して身体の残存機能や時間を最適化して配分します。これにより高齢者の方が現在の状況に効率良く対応できるようになるため、幸福感を得やすくなるでしょう。
SOC理論の「C」とはCompensation(補償)のことです。
具体的には他者からの助けを利用したり、これまで使っていなかった機器や技術を利用したりして喪失したものや能力の低下を補います。
これにより新たなことへの挑戦の機会や、新しい人間関係ができる可能性があるため、前向きな気持ちや幸福感を得やすくなるでしょう。

 

第2モデル
 エイジングパラドックスが起こる2つめの理由は、物事を考える際の枠組みを変えることで別の視点を持ち、自分を納得させられるようになるためです。
 このことを心理学用語でリフレーミングと言いますが、自分の感じ方をコントロールしどのような出来事でもプラスに変換して捉えることができるようになります。
 このため高齢者の方は気持ちがポジティブになり、幸福を感じやすくなるのです。

 

第3モデル
 エイジングパラドックスが起こる3つめの理由は、高齢者の心理的な発達段階の1つである老年的超越に達するためです。
 老年的超越(gerotranscendence)とは、現実に存在する物質的・合理的な世界観から宇宙的・非合理的・超越的な世界観への変化を指す社会学の用語で、1989年にスウェーデンの社会学者ラルス・トルンスタムによって提唱されました。
 老年的超越の特徴は次の通りです。
 社会関係の側面では過去に持っていた社会的地位や役割にこだわらなくなる
 自己の側面では自分の欲求をかなえたいという自己中心性や自尊心が良い意味で低下し利他性が高まる
 宇宙的意識の側面では自分の命が過去から未来への大きな流れの一部であることを意識し時間や空間を飛び越えた考え方ができるようになる
 高齢者の人は老年的超越により、時間や場所へのこだわりがなくなり自分より他者を重んじる心を持つようになることから幸福感が高まるのです。

 

 

人生の幸福度は「82歳以上」が最も高い?
高齢者ほど幸せな「エイジングパラドックス」

 

 

 

 

トップへ戻る