電力難民
関電など7社、法人契約再開 卸価格連動で採算確保
全国の電力小売会社で企業向けの新規契約再開の動きが広がっている。関西電力など大手7社が、電気料金に卸電力価格を反映する「市場連動型」の新プランを設け、受け付けを始めた。燃料高に伴う調達コスト増を受け、大手電力は今春以降、新規契約を止めていた。
上昇する調達費を転嫁できる仕組みに改めて採算を確保。
電力小売りと契約を結べない「電力難民」の増加に歯止めをかける。
関西電力は8月中旬、関電管内で契約を切り替える企業向けに市場連動型のプランを導入し、受け付けを約4カ月ぶりに再開した。電気料金は主に基本料金と電気を使った分だけ支払う従量料金で構成される。新プランは従来プランでは定額だった従量料金に、電力会社が電気を売買する日本卸電力取引所(JEPX)の電気の直近1カ月の取引価格を反映する仕組みを採用。相場によって電気の単価が上下する。
東京電力ホールディングスの電力小売子会社、東京電力エナジーパートナー(EP)も8月、市場連動型プランに限って顧客に提案していると明らかにした。同社は4月から契約切り替えの受け付けを事実上停止していた。5月に市場連動型プランを導入した中部電力には、8月上旬時点で計約400件の申し込みがあった。
新設の工場など、新たに電気を買う顧客と異なり、契約切り替えの顧客は電力会社にとって急な需要増につながる。前もって調達計画に織り込んで電源を手当てしづらい。新プランでは新規顧客分の電気についてはJEPXから追加で調達する仕組みを採用した。燃料高や電力不足で、卸電力価格は9月1日時点で1キロワット時あたり約35円と1年前の4倍近い水準になっている。仕入れコストを料金に転嫁することで採算を確保する。
新電力でも契約再開が相次ぐ。電力小売りとの契約がない企業向けを対象に、市場連動型プランを試験導入していたリミックスポイントは9月から契約対象をすべての企業に広げる方針だ。またUPDATER(東京・世田谷)も7月に市場連動型プランを導入して企業向けの契約受け付けを約3カ月ぶりに再開。これまでに30件の契約を結んだ。
沖縄電力を除く大手電力9社が新規契約を止めたことにより、燃料高で契約先の新電力が倒産するなどして行き場をなくした「電力難民」企業が今春以降、急増した。電力難民には大手電力傘下の送配電会社が電力供給を一時的に引き受ける「最終保障供給」と呼ぶ制度があり、利用件数は8月1日時点で約3万5000件と、1年前の約80倍に達していた。
最終保障供給は基本的に1年未満の利用を想定したセーフティーネットだ。送配電会社は需給調整用の電気を最終保障に回している。電力は需給を一致させないと周波数が乱れ、大規模な停電を引き起こす。最終保障の利用者が想定外に増え続けると調整用の電力が足りなくなって停電を防げなくなる恐れもあり、解消が急務となっていた。
従来制度では最終保障供給の価格を企業向けの標準料金の1.2倍に設定。通常の契約より割高にすることで一時的な利用にとどめるよう促してきた。ただロシアのウクライナ侵攻に伴って燃料価格が高騰。上限が設定された最終保障の供給価格が、通常の電気料金より割安となる逆転現象が起こり、電力難民が最終保障に滞留する懸念が高まっていた。
経済産業省は逆転現象の是正に動き、送配電会社は9月から最終保障供給の料金を引き上げた。上限を撤廃し、直近1カ月の卸電力価格に応じて料金が増減するよう仕組みを改めた。東京電力パワーグリッド(PG)管内の最終保障供給の9月分料金は中小規模の事務所だと従来比で約3割、関西電力系や中部電力系は2割強の値上げとなる。
一部の大手電力は単に最終保障供給から切り替えるための受け皿を設けるだけでなく、最終保障より新プランを割安に設定することで電力難民の削減を目指す。関西電力は傘下の電力小売りの市場連動プランについて、従量料金は最終保障供給とそろえつつ、10月からは基本料金を2割低く設定する。四国電力も同様に基本料金を2割安くし、新プランの料金が最終保障供給を上回らない仕組みとした。
大手電力9社は従量料金が定額の従来プランの受け付けも2023年2月ごろまでに相次ぎ再開する予定。先行して同プランの値上げにも動く。東北電力は11月から既存顧客を含む企業向けの料金水準を従来比16〜18%引き上げることを決めた。東電EPも値上げを検討中で、23年4月以降の供給分に反映する方針だ。
法人向けの契約が再開されても、さらなる電気料金の値上げは避けられない。電力を大量に消費する製造業や粗利率が低い小売業を中心に企業業績への影響はさらに深刻になる見通しだ。