令和元年版高齢社会白書
「高齢者」とは
高齢者の用語は文脈や制度ごとに対象が異なり、一律の定義がない。 高齢社会対策大綱(平成30年2月閣議決定 ) では 、便宜上、一般通念上の「高齢者」 を広く指す語として用いている。本白書においても、各種の統計や制度の定義に従う場合のほかは、一般通念上の「高齢者」を広く指す語として用いることとする。なお、高齢者の定義と区分に関しては、日本老年学会・日本老年医学会「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書」(平成29 年3月)において、近年の高齢者の心身の老化現象に関する種々のデータの経年的変化を検討した結果、特に 65〜74 歳では心身の健康が保たれており、活発な社会活動が可能な人が大多数を占めていることや、各種の意識調査で従来の 65 歳以上を高齢者とすることに否定的な意見が強くなっていることから、75 歳以上を高齢者の新たな定義とすることが提案されている。また、高齢社会対策大綱においても、「65 歳以上を一律に「高齢者」と見る一般的な傾向は、現状に照らせばもはや現実的なものではなくなりつつある。」とされている。
地域別にみた高齢化
平成 30(2018)年現在の高齢化率は、最も高い秋田県で36.4%、最も低い沖縄県で 21.6% となっている。今後、高齢化率は、すべての都道府県で上昇し、令和27(2045)年には、最 も高い秋田県では 50.1%となり、最も低い東京都でも、30%を超えて30.7%に達すると見込まれている。また、首都圏を見ると、千葉県の高齢化率は、平成 30(2018)年の 27.5%から 8.9 ポイント上昇し、令和 27(2045)年には 36.4% に、神奈川県では25.1%から10.1 ポイント上昇し 35.2%になると見込まれており、今後、我が国の高齢化は、大都市圏を含めて全国的な広がりをみることとなる。
年齢調整死亡率について
都道府県別に、死亡数を人で除した死亡率(以下「粗死亡率」という。なお、人口動態統計月報(概数)や人口動態統計年報(確定数)などでは単に「死亡率」という。)を比較すると、各都道府県の年齢構成に差があるため、高齢者の多い都道府県では高くなり、若年者の多い都道府県では低くなる傾向がある。このような年齢構成の異なる地域間で死亡状況の比較ができるように年齢構成を調整しそろえた死亡率が年齢調整死亡率である。この年齢調整死亡率を用いることによって、年齢構成の異なる集団について、年齢構成の相違を気にすることなく、より正確に地域比較や年次比較をすることができる。
まとめと考察
(1)高齢者が現在住んでいる地域に安心して住み続けるために
60 歳以上の人のうち 9 割近くが持家に居住しており、持家居住者を中心に、ほとんどの人が現在住んでいる地域に住み続けたいと考えている。そして、約半数が、最期を自宅で迎えたいと考えている。これらの傾向は年齢が上がるほど強まる傾向が見られる。
このように高齢者の多くが、住み慣れた自宅や地域でできるだけ長く過ごしたいと考えている中で、認知症を始め、病気や要介護になることは大きなリスクである。病気等の予防とともに、万一病気や要介護になっても住み続けられるようにするためには、個人の努力だけではなく、地域での取組も重要である。
(2)高齢者が地域で役割を持ち、活躍できる場づくり
現在住んでいる地域に住み続けたいと考えている 60 歳以上の人のうち半数以上が、安心して住み続けるためには近所の人との支え合いが必要であると考えている。一方で、孤立死を身近に感じる人は約3分の1となっており、地域のつながりに不安を感じる人も少なくない。このことから、高齢者が生活する地域では、日頃からの支え合いの仕組みの構築を進めていくこ とが重要であると考えられる。
そのためには、高齢者自身も、支えられるだけではなく一定の役割をもって地域に参画していくことが望ましいが、60歳以上で社会的な活動をしていない人は約 6 割、家庭や親族の中でも特に役割のない人は約 2 割にのぼり、年齢が上がるほど高まる傾向があることから、高齢者の社会参画をさらに促していくことが今後の課題である。
(3)外出手段の確保の重要性
60歳以上の人の多くが外出のために自家用車を使っており、自ら毎日運転する人も少なくない。この傾向は都市規模が小さくなるほど高まる傾向があり、都市部よりも地方で、車が日常生活に不可欠な存在になっていることがうかがわれる。
一方で、高齢になるほど認知機能の低下等により車の運転が難しくなる中、高齢者の外出手段をどのように確保していくのかは重要な課題である。高齢者の社会参画を進めようとすれば、外出手段の確保の重要性はより高まるものと考えられる。
高齢者の外出手段の問題だけでなく、 中心市街地の空洞化や、市街地の低密度化によ る行政管理コストの増大など、様々な都市課題の解決にも資する取組となっている。
以上のとおり、地域の高齢化が進展する中においては、住民にとって住み慣れた地域で安心して住み続けられるようにすることが重要であり、そのためには社会参画機会や外出手段の確保等の面で様々な工夫が求められる。