量子コンピュータ
近年、現代社会に広く普及している従来型のコンピュータとは異なる仕組みで動作する「次世代コンピューター」が注目されている。
その背景には、従来型のコンピューターの性能向上に限界が見えてきたという事情がある。コンピューターの性能向上は、「集積回路上の半導体(トランジスタ)の数が、1.5年〜2年ごとに倍増する」というムーアの法則に沿った半導体の微細化と、それによる処理速度や省電力性能の向上に支えられてきた。
しかしながら、現在、ムーアの法則は終焉を迎えつつあるとも言われており、微細化のみを通じて継続的に性能を向上させることは、難しくなってきている。
その一方で、AI技術などを活用した製品やサービスが急速に普及しており、大量のデータを高速かつ省電力で処理することへのニーズは、これまで以上に拡大している。
近年、最先端のAIが学習に要する計算量は、概ね3.5ヵ月ごとに倍増しており、過去5年半の間に約30万倍へと増加している。
これは、AI技術が急速に進歩していることを示すとともに、AIの学習を担うコンピューターの高性能化が極めて重要であることを意味している。
このような状況下において、微細化のみに頼ることなく情報処理技術を高めるため、従来技術の延長線上にない新たな仕組みの「量子コンピューター」に注目が当たっている。
量子コンピューターには、大きく分けて、「量子ゲート型」と「量子アニーリング型」の2つの方式がある。前者の方式の量子コンピューターは「ゲート型量子コンピューター」、後者は「アニーリング型量子コンピューター」もしくは「量子アニーリングマシン」と呼ばれている。
ゲート型量子コンピューターは、いわゆる汎用型の量子コンピューターであり、理論的には、あらゆる種類の問題を解くことができる。
一方、量子アニーリングマシンは、膨大な組合せの中から最適な組合せを見つける「組合せ最適化問題」を解くことに特化した量子コンピューターである。
社会には至る所に組合せ最適化問題が存在しており、広範な産業分野で活用される可能性を秘めている。
たとえば、配送情報や交通量の変化を踏まえた物流オペレーションの構築、金融市場の変動を反映したポートフォリオの更新、人々のニーズに合わせたコンテンツの配信、AIを活用した新材料の開発などは、すべて量子アニーリングマシンの有望な適用領域として期待されている。
量子コンピューターとは、簡単に言えば「スーパーコンピューターを大幅に上回る処理速度を持つ、次世代のコンピューター」のことだ。量子力学という、従来のコンピューターとは全く違う原理を採用することで、圧倒的な情報処理能力を持つ。
私たちが知る通常のコンピューターは「ビット」という単位を用いて演算を行なうが、量子コンピューターは「量子ビット」という量子力学上の単位を使う。情報を扱う際、ビットでは「0と1のどちらの状態にあるのか」を基礎とするが、量子ビットでは量子力学特有の「重ね合わせ」という概念を用いる。これにより、複数の計算を同時に進めることができるのだ。
量子コンピューターは従来型コンピューターに比べて圧倒的に低コストで運用できると言われており、エネルギー問題の観点からも注目されている。事実、後述の「D-Wave Systems」が開発した量子コンピューターは、現在のスーパーコンピューターの100分の1の電力で稼働させられるという。
ちなみに量子コンピューターと言えば、クレジットカード等の情報保護等に使われている「暗号化技術の解除」を簡単にできるもの、というイメージを持っているかもしれないが、それができるとされるのも量子ゲート型だ。
汎用性は高くないが、「組み合わせ最適化問題」を解くことに関してはスーパーコンピューターでも歯が立たないほどの処理能力を持つ。いわば一点特化型の能力だが、昨今様々な分野で重要視されるAIや機械学習、ビッグデータの処理においては非常に有用な能力と言える。
NASAとGoogleの研究により、得意分野を任せればスーパーコンピューターの1億倍の速さで計算できるという結果が明らかになっている量子コンピューター。途方もない技術が数年後の社会をどう変えてしまうのか。