管理者のモチベーションを高める施策

 介護施設の管理者が主体的に動くためには、まず意識改革と動機づけが重要です。管理者自身に「情報共有や入居促進に取り組むことが施設の成果につながる」と実感してもらう必要があります。そのための具体策として、以下が考えられます。

 

@目標設定と外発的インセンティブの活用: 具体的な目標を設定し、達成度に応じて評価や報酬に反映させます。例えば、「月次で○件の情報共有投稿」や「入居率○%以上維持」など少し高めの目標を提示し、達成すれば役職手当や表彰につなげるといった施策です。賃金アップや役職付与といった分かりやすい報酬は即効性があり、「それに見合う働きをしよう」という意欲を引き出します。最低限のライン以上の成果を求めることで、現状に安住せず努力するきっかけを与えることができます。

 

A感謝と承認による内発的動機づけ: 管理者の行動に対して小まめに感謝や称賛のフィードバックを行い、自尊心を満たすことも効果的です。「〇〇施設長が共有してくれた事例が他施設でも役立ちました」など、社内SNSや掲示でポジティブなメッセージを送ると、いわゆる「感情報酬」となりモチベーションが上がります。また、達成できる小さなプロジェクトや業務を任せ、それをうまくやり遂げたら皆の前で正直に具体的な成果を褒めることで、自己効力感を高めます。例えば「今月は情報共有の頻度が一番多かった」といった事実を評価・称賛することで、「認められた」という実感が芽生え、自発的なやる気(内発的動機)につながります。

 

B役割意識と研修による意欲向上: 管理者向けの研修や勉強会を定期的に開催し、他社や他施設の成功事例に触れる機会を作ることも有効です。他社事例を知ると「自分の施設でもやってみよう」という刺激になります。情報共有や営業活動の重要性をデータや事例で示し、それがサービス品質向上や自身の評価につながると理解させる教育も必要です 。例えば研修で「情報共有が事故防止や業務負担軽減につながった他施設の例」を紹介すれば、自らの業務にも活かそうという前向きな姿勢を引き出せます。

 

業務負担を増やさずに情報共有を促進する方法
 新たな取り組みでも「忙しさが増えない工夫」をすることで、管理者に抵抗感なく情報共有に参加してもらえます。ポイントは既存の業務フローに組み込みつつ、手間を削減するツールや仕組みを導入することです。

 

@連絡手段の一本化と簡素化: 施設内外の連絡手段を統一し、情報伝達のムダを省きます。例えば、これまで掲示板への貼り紙やメールで各施設に周知していた連絡事項を、ビジネスチャットで一括発信するように切り替えます。ある社会福祉法人では複数の連絡方法を使っていたため「本当に全員に伝わったか?」確認が困難でしたが、チャットツール導入後は重要文書を撮影して画像で送信し、スマホに不慣れな年配職員でも手軽に情報を確認できるようになりました。さらに会議や研修の動画も共有しやすくなり視聴回数が増え、既読確認機能で「誰が見たか」が一目でわかるため連絡漏れが防止できています。このように一度の送信で確実に周知できる仕組みは、むしろ業務負担の軽減につながります。

 

Aツール導入時のサポート: デジタルツールを導入する際は、「新しい操作が難しい」という心理的負担を減らす工夫も必要です。長崎県のある介護施設では、利用者逝去時の家族や職員への連絡を電話で行っており、夜間は全員に周知するのに時間がかかる課題がありました。そこでチャットツールを導入し、一斉送信で迅速に情報共有する体制に変更したところ、誰がいつ確認したかが明確になり連絡漏れが解消されています。当初は高齢の職員が操作に戸惑ったものの、サポートセンターの丁寧な支援で無理なく使いこなせるようになったといいます。このように導入初期に手厚いサポートや研修期間を設ければ、ツール活用が定着し業務の一部として自然に情報共有が行われるようになります。

 

B「ながら共有」の仕組み化: 業務の合間や既存業務と並行して情報共有できる仕掛けも有効です。例えば、日報や介護記録を書くついでに共有したい事例を1行追加するルールを作る、会議で出た有益な意見をその場で撮影・アップして全施設に共有する、など余分な手間を感じさせない工夫です。ノートやホワイトボードでは後で書き写す二度手間がありますが、写真を撮って送るだけなら簡単ですし、音声入力や短いボイスメッセージで報告できるようにすれば入力の負担も減ります。年配職員にも配慮し、誰でも使えるシンプルな方法を採用することがポイントです 。

 

施設間の連携を自然に強化する仕組み
 コロナ禍以前に行っていた合同会議がなくなり、施設同士のつながりが希薄になっている場合、日常業務の中で自然と交流・連携が生まれる場を作ることが求められます。トップダウンで無理に集まらせるのではなく、「気づけば連携している」という状態を目指し、以下のような仕組みを検討できます。

 

@定期的な情報交換ミーティング(オンライン含む)の復活: 以前対面で実施していた合同会議を、規模や形式を工夫して再開します。例えば各施設管理者が月1回オンラインで集まり、最近の課題や入居状況を気軽に報告し合う場を設けます。短時間で済むよう議題を絞り、「良かった事例共有」「困り事相談」のようにテーマを決めて発言してもらうと有意義です。オンラインであれば移動負担もなく参加しやすいため、コロナ禍でも継続的な交流が可能です。発言内容は議事録やチャットで他の職員にも共有すれば、施設間の知見共有につながります。

 

A横のつながりを促す社内SNS・グループチャット: LINE WORKSなど既存のチャットツールを活用し、施設横断のグループを作ります。管理者同士が日常的に連絡を取り合えるチャットルームや掲示板を用意し、運営上の相談や地域情報の交換を気軽にできるようにします。実際に、◯県内で障がい者・高齢者施設を複数運営する社会福祉法人◯◯では、本部から各施設への連絡手段をチャットに統一し、掲示板への張り紙やメールを廃止しました。結果、連絡の一元管理と情報伝達の効率化に成功し、非常時の報告連絡もスムーズになった例があります。このように**デジタル上での「ゆるいつながり」**を作っておけば、いざという時の施設間調整も迅速に行いやすくなります。

 

Bスタッフ交流・支援体制の構築: 施設間で人員に偏りがある場合、応援や人材交流の仕組みを作ることで連携が深まります。例えば忙しい施設へ他施設から一時的にスタッフが応援に入る、人手に余裕がある時期に交換研修を行う等です。△△県の事例では、老人ホームとデイサービスでスタッフを融通し合い研修を実施しました。具体的には夕方の時間帯に2施設からそれぞれ2名ずつ集めて研修を行い、老人ホーム職員が研修中はデイサービス職員がその間老人ホームの業務を代行したそうです。このようにクロスカバーしながらの合同研修は、現場業務を理解し合う良い機会になり、施設間の信頼関係と連携を強める効果があります。普段から顔の見える関係を築いておけば、情報共有も自然と活発化するでしょう。

 

B共同プロジェクトや競争の導入: 複数施設で取り組むイベント(例えば地域向けの介護相談会や合同レクリエーション大会)を企画すると、準備を通じて管理者同士・職員同士が協力するきっかけになります。また、グループ内で情報共有や入居促進に関する取り組みを競い合う表彰制度を作るのも一案です。「○月の情報発信優秀施設」「年間入居率アップ賞」のように表彰すれば、自然と互いに情報交換し合いながら切磋琢磨する文化が醸成されます。競争と協調をバランスよく取り入れ、遊び心を持って連携強化を図ることがポイントです。

 

デジタルツールの有効活用事例
 現場のICTリテラシーが高くなくても使えるデジタルツールを活用することで、情報共有や営業活動が飛躍的に効率化した事例があります。重要なのはツール導入それ自体が目的ではなく、「業務負担を減らしながら必要な情報を確実に届ける」手段として使うことです。以下、介護業界での成功事例を紹介します。

 

@ビジネスチャット(LINE WORKS等)による負担軽減: 先述の通り、ある法人では掲示・メール中心だった連絡をチャットに移行し、スマホ1つで情報共有が完結するようにしました。また、別の居宅介護支援事業所では、利用者家族や他事業所との連絡にLINE WORKSを導入し、電話の回数が従来の3分の1に減少したケースがあります。LINEと連携できるチャットのおかげで、利用者本人や家族とも日常的にやり取りできるようになり、連絡のすれ違いや折り返し対応が激減しました。無料プランを上手に活用したためコスト増もなく、結果的に業務負担の軽減とケアマネジメントの質向上につながっています。このように汎用的なチャットツールを工夫して使えば、情報共有にかかる手間を減らしつつ高齢の家族や多職種との連携まで強化できます。

 

Aモバイル端末・アプリの活用: 介護記録や申し送りをタブレットで共有する仕組みも有効です。例えば、ある社会福祉法人ではiPadを用いた「介護記録システム」を導入し、各職員がリアルタイムに入居者情報を閲覧・記録できるようにしました 。これにより記録の属人化を防ぎ、夜勤者と日勤者で情報にズレが生じないようにしています。紙の記録ではどうしても記入漏れ・伝達漏れが起きがちでしたが、電子化によって管理者も全施設の状況を一目で把握できるようになったといいます。また、インカム(無線機)の導入でスタッフ同士が即座に連絡を取り合える環境を整え、ヒヤリハットの情報を逃さず共有できるようになった施設もあります。現場目線で「これなら使える」というデジタル機器を選定し導入することで、管理者主導でもスムーズな情報共有が実現できます。

 

B営業支援システム(SFA/CRM)による入居者情報の一元管理: 複数の施設を運営する法人では、入居希望者の紹介情報を各施設バラバラに管理しているとフォロー漏れが生じることがあります。そこで、営業支援システム(SFA/CRM)を導入して入居希望者データを共有化した事例があります。従来エクセルで管理していた顧客情報をクラウド上に統合し、どの施設でもリアルタイムに閲覧・更新可能にしました。その結果、「ある施設で満床でも他施設へ紹介する」といった連携がスムーズになり、問い合わせ後のフォローもタイムリーに行えるようになっています。またマーケティング機能と連携させることで、紹介元への定期配信や統計分析も自動化され、新たな営業スタイルを構築しています。このようにデジタルツールを使えば、管理者の負担を増やさずに組織全体で情報を資産化し活用することが可能です。

 

営業活動を効率化する仕組み
 現状「営業しなくても最低限の入居は確保できている」として消極的になりがちですが、競合施設が増える中で安定経営には計画的な入居促進策が欠かせません。そこで営業=負担増と思い込まずに、効率的・戦略的に動ける仕組みを取り入れることが重要です。以下にその具体策を挙げます。

 

@営業の重要性を再認識する: まず管理者自身が「営業活動=自施設を知ってもらう周知活動」であり、介護施設運営に必要不可欠だと理解することが出発点です。いくら良いサービスを提供していても存在を認知されなければ利用にはつながりません。特に民間の有料老人ホームなどは年々競争が激化しています。将来の安定運営のため、「今は余裕があっても、選ばれ続ける努力が必要だ」という危機感や経営視点を持たせる教育を行います。例えば、地域の施設数推移や競合の動向データを共有し、自施設の強みを発信していく重要性を数字で示すなどの施策です。

 

A紹介ルートへのアプローチ強化: むやみに飛び込み営業をする必要はなく、効果的なターゲットに絞って働きかけます。具体的には、居宅介護支援事業所のケアマネジャーや病院の地域連携室(医療ソーシャルワーカー)といった紹介元となり得る専門職との関係構築が肝心です。営業といっても「入居者を紹介してください」と一方的に売り込むのではなく、相手のニーズに沿った情報提供を心がけます 。ケアマネジャーには自施設で対応可能なサービス内容や受け入れ事例を、医療機関には退院後の受け皿としての体制や実績を、それぞれ求められる情報を整理して伝えることが大切です。自施設の取り組みをアピールするだけでなく、相手側の課題(「受け入れ先がなく困っているケースは?」「連携で改善できることは?」など)をヒアリングし、解決策を提案する姿勢が信頼につながります。地域のケアマネから信頼を得られれば口コミはすぐ広がり、紹介数増加に直結します。つまり、「営業」というよりパートナー関係の構築という意識で取り組むと効率的です。

 

Bコミュニティと入居者・人材確保: 営業活動の一環として、地域コミュニティとの交流を深めることも有効です。入居検討者を直接集客するだけでなく、地域の潜在ニーズを掘り起こす取り組みです。入居率100%を維持しているある施設では、地域の老人会活動に職員が参加したり、施設内スペースを開放して地元住民のサークル発表の場に提供するといったことを継続的に行っています。その結果、地域の方から**「あの施設に入りたい」「知人で探している人がいる」といった紹介が生まれ**、場合によっては新たな人材の確保にもつながっています。このように地域に開かれた施設運営をすることで宣伝費をかけずとも信頼が広がり、自然な入居促進につながります。コロナ禍で地域交流イベントが制限されていた場合も、オンライン見学会や通信(ニュースレター)の発行など代替手段で情報発信を絶やさないようにすると良いでしょう。

 

Cデータ活用とフォローの自動化: 前述の営業支援システム(CRM等)の活用により、少ない人手で多くの見込み客フォローを可能にする仕組みを整えます。問い合わせや資料請求があった方の情報を一元管理し、一定期間ごとに自動でメールや郵送物でフォローアップするなど、システムによる半自動の営業活動を取り入れます。Excel管理では担当者任せになりがちだったフォローも、仕組み化すれば漏れが減り、中長期的に入居につながる確率が上がります。また過去のデータ分析から効果の高い営業先(例えば紹介件数の多い病院や反応の良い広告媒体)がわかれば、そこに資源を集中投下するなど無駄のない戦略立案も可能です。デジタルツールとデータを駆使して、「最小の労力で最大の効果」を上げる営業体制を構築しましょう。

 

 以上のように、管理者の意識改革と仕組みづくりの両面からアプローチすることで、情報共有や入居促進への積極的な関与を促すことができます。大事なのは、「やらされ感」ではなく「自ら取り組む意義」を管理者が感じられるようにすることです。業務負担を増やさない工夫や成功体験の積み重ねによって、少しずつ行動が前向きに変化していくでしょう。それが結果的に入居者サービスの向上と安定経営につながり、管理者自身の評価ややりがいにも返ってくる好循環を目指せます。各施策を自社の規模や文化に合わせて調整し、無理のない形で実施していくことが成功のポイントです。

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